原子力の用語『水素脆化』

原子力の用語『水素脆化』

原子力を知りたい

「水素脆化」ってどういう意味ですか?

原子力マニア

金属材料が水素を吸収することで脆くなる現象です。脆くなり方は様々です。

原子力を知りたい

原子力工学ではなぜ水素脆化が問題になるんですか?

原子力マニア

原子炉の事故時、軽水型発電炉の燃料を覆っているジルカロイ被覆管が水素脆化を起こすことで破損する可能性があるためです。

水素脆化とは。

原子力用語の「水素脆化」とは、金属材料が水素を吸収したことで脆くなる現象のことです。水素脆化のパターンはさまざまです。原子力工学では、軽水炉の燃料棒を覆うジルカロイ被覆管の水素脆化が重要な問題となっています。

この現象は、原子炉の通常の運転時だけでなく事故時にも問題となりますが、安全性研究では特に事故時に注目しています。事故(主に原子炉冷却材喪失事故)が発生すると、被覆管が破損し、破損箇所から燃料棒内に水蒸気が侵入し、被覆管内部が酸化します。このジルカロイと水蒸気の反応によって水素が発生し、被覆管内部ではこの水素が取り除かれにくい状態となります。そのため、周囲の空気の組成が水蒸気と水素の混合ガスに変化します。ガス中の水素の濃度があるレベルを超えると、ジルカロイ被覆管は水素だけでなく酸素も吸収し、非常に脆くなります。

水素脆化とは

水素脆化とは

水素脆化とは、金属材料に水素が侵入し、その機械的性質を低下させる現象です。材料内部で水素が金属原子と結合して水素分子を形成しようとします。この時、水素分子の周囲にひずみが発生し、金属材料に欠陥や割れ目が生じやすくなるのです。その結果、材料の強度や延性が低下し、破損するリスクが高まります。

ジルカロイ被覆管の水素脆化

ジルカロイ被覆管の水素脆化

ジルカロイ被覆管の水素脆化

原子力発電所では、核燃料が挿入されているジルカロイ製の被覆管が炉心に装填されています。このジルカロイ被覆管は、使用中に高温の水と反応して水素を取り込み、水素脆化と呼ばれる現象を引き起こします。水素脆化とは、金属が水素を吸収することで脆くなり、破損しやすくなる現象です。ジルカロイ被覆管では、水素脆化により、水素がジルカロイの結晶粒界に集積し、腐食や割れの発生につながる可能性があります。そのため、ジルカロイ被覆管の水素脆化を抑制することが、原子力発電所の安全運転に欠かせない課題となっています。

原子炉事故時の水素脆化

原子炉事故時の水素脆化

-原子炉事故時の水素脆化-

原子炉事故が発生すると、原子炉内のジルコニウム合金製の燃料被覆管が過熱により水蒸気と反応して水素を発生させます。この水素は金属構造物に溶け込み、水素脆化という現象を引き起こします。これにより、金属の延性や靭性が低下し、もろくなって破損しやすくなります。

水素脆化は、原子炉圧力容器や配管などの重要な安全関連機器に損傷を与える可能性があります。事故時に発生する高い温度と水素濃度が、これらの機器の耐水素脆化性能を低下させるためです。そのため、原子炉設計においては、水素脆化に対する耐性を確保することが重要視されています。

ジルカロイ-水蒸気反応

ジルカロイ-水蒸気反応

ジルカロイ-水蒸気反応は、原子力発電所やその他の産業用途で広く使用されているジルカロイ合金と水蒸気との反応を指します。この反応は高温下(800℃以上)で発生し、ジルカロイの表面に脆化層を形成します。この脆化層は、水素イオンがジルカロイの結晶構造に侵入して水素化物を形成することで生成されます。

水素脆化は、金属の延性と靭性を低下させ、破損に対する感受性を高めます。原子力発電所の燃料被覆管(ジルカロイでできている)において、ジルカロイ-水蒸気反応が進行すると、被覆管の強度が低下し、冷却材漏洩や燃料棒の破損につながる可能性があります。したがって、原子力産業では、ジルカロイ-水蒸気反応を制御し、水素脆化による問題を防ぐことが重要です。

水素脆化による被覆管破損

水素脆化による被覆管破損

水素脆化による被覆管破損は、原子力プラントの重要な懸念事項です。原子炉内の高圧水環境では、水素が燃料被覆管のジルコニウム合金に拡散します。この拡散水素が金属内の原子間結合を脆くして水素脆化を引き起こし、被覆管の延性と靭性を低下させます。

水素脆化が進んだ被覆管は、応力集中下で破損する可能性が高くなります。破損は、被覆管の膨張や破裂につながり、炉心冷却材への放射性物質の漏出を引き起こす可能性があります。そのため、原子力プラントの運転では、水素脆化を監視し、防止策を講じることが不可欠です。